ハンドクラフト法とはアセットアロケーションを組み立てる方法。
書籍『アセットアロケーションの最適化』で紹介された手法です。

アセットアロケーションをゼロから作るときに、よく起きる問題があります。
それはボトムアップのアプローチで、有名な銘柄を無作為に組み合わせてしまうこと。
結果でき上がったポートフォリオは、子供がおもちゃ箱をひっくり返したようなもの。

この対策になるのがハンドクラフト法。
最適に分散されたポートフォリオを、難しい計算なしに作り上げる方法です。

一番の特徴はトップダウンのアプローチで投資比率を決めるところ。
感覚に頼った方法よりきれいに分散され、厳格な方法より簡単に比率を求められます。

この記事では書籍の内容を参考に、ハンドクラフト法で実際にアロケーションする過程を解説します。

この記事でわかること
  • ハンドクラフト法によるアロケーションの方法
  • 低リターンアセットの比率を制限して、全体のリターンを高める方法
  • 分散されたポートフォリオ構築の具体例

時価総額加重は米国に偏りすぎててしっくりこない。
そんな人にこそ読んでほしい内容です。

ハンドクラフト法とは

ハンドクラフト法とは書籍『アセットアロケーションの最適化』で紹介されている手法。
一定の条件下でシャープレシオが最大のポートフォリオを構築する方法です。

ハンドクラフト法には大きな特徴が2つあります。

  • トップダウンのアプローチで投資比率を決定
  • リスクウエートで均等割り

トップダウンのアプローチで投資比率を決定

ハンドクラフト法ではまずアセットの比率を決めます。
そこから徐々に小さな括りの投資比率に落とし込んでいきます。

  1. アセット(株式・債券など)
  2. エリア(北米・アジアなど)
  3. 国(米国・日本・英国など)
  4. セクター(金融・通信など)

個別銘柄を基準にボトムアップで構築する。
この方法だと有名なものや人気なものに投資比率が偏りがちです。

ですがトップダウンで上流から投資比率を決めれば、偏りは防げます。
理想的な分散をとても簡単に実現できるんです。

リスクウエートで均等割り

リスクウエートで均等割りというのは、アセットやエリアなど同じ粒度の要素に、等しくリスクを振り分けていくことです。

これだけで簡単にシャープレシオが高く投資効率の良いポートフォリオができ上がります。

最終的にはリスクウエートを資産ウエートに変換し、実際の投資比率に置き換えます。

資産ウエートとリスクウエート

投資するにあたって普段意識するのは資産ウエートです。

例えば資産額100万円で株式:債券の比率を5:5にするとしたら。
株式に50万円投資して債券に50万円投資する、という意味になります。

ハンドクラフト法では資産ウエートではなくリスクウエートを使います。
リスクウエートとはその名の通り、リスクに重みづけした単位です。

例えばリスクウエートで株式:債券の比率を5:5としましょう。
このケースで資産ウエートはおよそ3:7となります。

スポンサーリンク

アセットアロケーションの考え方

まずはアセットアロケーションから決めていきます。
具体的には以下3種類のアセットにどう資産配分するのか。

  • 株式
  • 債券
  • オルタナティブ

均等割りの考えで、それぞれのアセットに33%ずつリスクウエートを割り振る。
これがシャープレシオ最大のアセットアロケーションの正解です。

ですがリスクウエート33%ずつというのはオススメできません。
その理由を解説しつつ、具体的な6パターンのアセットアロケーションを解説します。

  • オルタナティブのリスクウエートは10%以下に
  • 債券のリスクウエートを制限してリターンを高める
  • 6パターンのアセットアロケーション

オルタナティブのリスクウエートは10%以下に

オルタナティブのリスクウエートは10%以下にすべきです。
その理由は株式や債券に比べて、オルタナティブのコストやリスクが高いから

株式や債券は信託報酬が0.1%前後の投資信託にいくつか選択肢があります。
しかしオルタナティブは、信託報酬0.5%前後で設定されているものが多いです。

またオルタナティブにはリスクが急激に変動するという、残念な特性もあります。
直近ではウクライナ問題と同時期に金や小麦の値段が急騰しましたよね。

なのでオルタナティブの割り振りは以下2パターンのどちらかになります。

  • 分散効率を高めるためにリスクウエートの10%程度を割り振る
  • コストやリスクの特性が好みでなければオルタナティブは除外する

ちなみに筆者の好みは前者、10%程度を割り振る考え方です。

債券のリスクウエートを制限してリターンを高める

リスクウエートで均等割りする。
これでシャープレシオが高いアセットアロケーションは作れます。

しかし誰もがシャープレシオを求めているわけではありません。

シャープレシオが高いというのは、リスク当たりのリターンが高いということ。
つまり投資効率が良いという意味であり、リターンで見るとむしろ低めです。

若い、独身、お金持ちなど、より多くリスクを取れる人にとって、シャープレシオ最大というのは退屈かもしれません。

この場合は均等割りをやめて、リスクの低いアセットに上限を定めて調整します。
具体的には債券のリスクウエートを、以下の3パターンのどれかに制限することです。

  • 債券のリスクウエートを10%に制限(最もリターンが高い)
  • 債券のリスクウエートを30%に制限(バランス型)
  • 債券のリスクウエートを50%に制限(最もシャープレシオが高い)

債券のリスクウエートを0%にしない理由

リターンを追い求めるなら株式100%にすればいい。
そう思っている人もいるかもしれません。

ですが少しは債券を混ぜたほうがよいです。
その理由はリターンをほぼ下げずにリスクだけを下げられるから。

債券の割合とリターンの関係

縦軸がリターン。横軸が債券の比率です。
債券の比率が20%を超えるまでは、リターンが横ばいなのが見て取れます。

リスクを下げつつ、リターンは据え置きできる。
なので10%程度の債券を混ぜたほうが、効率的なアセットアロケーションになります。

6パターンのアセットアロケーション

  • オルタナティブを組み込むか除外するか
  • 債券のリスクウエートをどう制限するか(10%・30%・50%)

この組み合わせで6パターンのアセットアロケーションができます。
その内容を下記の表にまとめます。

6パターンのアセットアロケーション 上段:リスクウエート、下段:資産ウエート
株式 債券 オルタナティブ
リターン最大 90
78.3
10
21.7
リターン最大
+オルタナティブ
81
71.4
9
19.8
10
8.8
バランス型 70
48.3
30
51.7
バランス型
+オルタナティブ
63
44.8
27
48.0
10
7.2
シャープレシオ最大 50
28.6
50
71.4
シャープレシオ最大
+オルタナティブ
45
26.9
45
67.1
10
6.0

ここに挙げたのは、ほんの一例です。
しっくりくるポジションが見つかるまで、微調整してみてください。

債券への投資について

アセットアロケーションに当然のように債券を含めています。
しかし現状では債券への投資はあまりオススメできません。

その理由は日本を除いて世界的に利上げ傾向だから。

債券と金利はシーソーの関係にあり、金利が上がると債券価格が下がります。
つまり今は債券価格が下がっている真っ最中ということ。

なのでアセットアロケーションの債券の部分は一旦現金で持っておく。
そして利上げが終わったタイミングで債券に投資するのがベターです。

リスクウエートから資産ウエートへの変換方法

ハンドクラフトではリスクウエートでアロケーションを進めます。
ですが実際に投資するには資産ウエートが必要です。

ここでリスクウエートから資産ウエートへの変換方法を解説します。

以下の手順で計算するとリスクウエートを資産ウエートに変換できます。
色々数字が出てきますがやることはとっても簡単。

小学生でもできる計算なので、チャレンジしてみてください。

  • 標準偏差を用意する
  • 目標標準偏差を設定する
  • ボラティリティレシオを算出する
  • 近似資産ウエートを算出する
  • 正規化ファクターを算出する
  • 最終資産ウエートを求める
リスクウエートから資産ウエートへの変換
株式 債券 オルタナティブ
標準偏差 15 6 15
目標標準偏差 12
比率 0.8 2 0.8
リスクウエート 81 9 10
近似資産ウエート 64.8 18 8
トータルウエート 90.8
正規化ファクター 1.10
最終資産ウエート 71.4 19.8 8.8

標準偏差を用意する

アセットに適用する標準偏差を用意しましょう。
ここでは以下の近似値で話を進めます。

  • 株式:15
  • 債券:6
  • オルタナティブ:15

以降の項目では具体例として株式の計算式を例示します。

目標標準偏差を設定する

目標標準偏差には標準偏差の平均を用います。

\[(15+6+15)÷3=12\]

ボラティリティレシオを算出する

ボラティリティレシオ、上記表でいうところの比率は、目標標準偏差を標準偏差で割って計算します。

\[12÷15=0.8\]

近似資産ウエートを算出する

近似資産ウエートはリスクウエートと比率を掛けて計算します。

\[81×0.8=64.8\]

正規化ファクターを算出する

近似資産ウエートを全て足して、トータルウエートを求めます。

\[64.8+18+8=90.8\]

100をトータルウエートで割った値が正規化ファクターです。

\[100÷90.8≒1.10\]

最終資産ウエートを求める

近似資産ウエートに正規化ファクターを掛けたものが、最終的な資産ウエートになります。

\[64.8×1.10≒71.4\]

スポンサーリンク

ポートフォリオの考え方

アセットのウエートを決めたら次はポートフォリオ。
具体的にどんな銘柄を組み合わせるか考えていきます。

ここでは誰もが一番興味のある、株式に絞って話を進めます。

株式のアロケーションの、簡単な流れは以下の通り。

  1. 全世界株式のみ
  2. 先進国と新興国の2つに分ける
  3. 先進国を米国と米国以外に分ける
  4. 先進国を地域別に分ける

では具体的なポートフォリオを見てきましょう。

【ポートフォリオ1】全世界株式のみ

時価総額加重を信頼している。
であればポートフォリオの構成は全世界株式一本となります。

【ポートフォリオ1】全世界株式のみ
全世界株式
ETF VT
投資信託 eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
投資国 米国 日本 英国 中国 カナダ フランス スイス オーストラリア ドイツ 台湾 その他
最終ウエート 59.3 6.0 4.2 3.3 3.2 2.5 2.4 2.2 2.0 2.0 12.9

米国に6割投資するのが片寄っていると感じるなら、次のポートフォリオを見てみましょう。

【ポートフォリオ2】先進国と新興国の2つに分ける

こちらは先進国と新興国の2つにアロケーションしたもの。

ハンドクラフト法をそのまま当てはめると比率は半々になります。
ですがここでは均等割りを採用していません。

新興国は先進国に比べてコストやリスクが高いです。
なのでオルタナティブと同様に、エクスポージャーを制限します。

ここでは筆者の好みで新興国のリスクウエートを20%にしました。

【ポートフォリオ2】先進国と新興国の2つに分けたもの
先進国 新興国
リスクウエート 80 20
資産ウエート 82.5 17.5
ETF VWO
投資信託 SBI・先進国株式
インデックス・ファンド
SBI・新興国株式
インデックス・ファンド
投資国 米国 日本 英国 カナダ スイス その他 中国 台湾 その他
最終ウエート 52.8 5.9 3.8 3.0 2.4 14.6 5.4 3.0 9.1

先進国と新興国の2つだと、いまだ米国に5割も投資していることに。
ここから先のポートフォリオでさらに分散させていきます。

【ポートフォリオ3】先進国を米国と米国以外に分ける

先進国と新興国より、さらにブレイクダウンする。
であればサイズの大きな先進国を分割していきましょう。

先進国で分散を高めようと思うと避けて通れないのが米国。

米国へのエクスポージャーを25%に制限したポートフォリオが以下のものです。
※先進国のリスクウエート80の内の25%なので、80×0.25=20

【ポートフォリオ3】先進国を米国と米国以外に分けたもの
先進国 新興国
地域 米国 米国以外
リスクウエート 20 60 20
資産ウエート 19.0 61.4 19.6
ETF VTI VEA VWO
投資信託 ※1 eMAXIS Slim 新興国株式インデックス
投資国 米国 日本 英国 カナダ フランス スイス その他 中国 台湾 その他
最終ウエート 19.0 12.2 8.1 6.6 5.0 4.9 24.6 6.4 3.7 9.5

※1 楽天・全米株式インデックス・ファンド

ポートフォリオ1や2と比べて、かなり分散できました。
リスクウエートは一例なので、もう少し米国のウエートを高めてもいいかもしれません。

【ポートフォリオ4】先進国を地域別に分ける

ポートフォリオ3とは別パターンの分散。
こちらは地域でアロケーションします。

地域とは、北米・アジア・ヨーロッパのことで、地理的な分類を意味します。

ここでは均等割りで3つの地域に33.3%ずつリスクウエートを振り分けます。
※先進国のリスクウエート80のうちの33.3%なので、80×0.333≒26.7

【ポートフォリオ4】先進国を3つの地域に分けたもの
先進国 新興国
地域 北米 アジア ヨーロッパ
リスクウエート 26.7 26.7 26.7 20
資産ウエート 25.4 30.1 24.9 19.6
ETF VTI VPL VGK VWO
投資信託 ※1 eMAXIS Slim 新興国株式インデックス
投資国 米国 日本 オーストラリア その他 英国 フランス スイス ドイツ その他 中国 台湾 その他
最終ウエート 25.4 16.6 6.0 7.5 6.4 3.9 3.7 3.1 7.8 6.4 3.7 9.5

※1 楽天・全米株式インデックス・ファンド

北米ファンドを見つけられず米国ファンドで代用しているので、カナダが抜けているのが玉に瑕。
ですがポートフォリオ1や2と比べれば、広く分散できています。

分散はコストとトレードオフ

同じことを新興国に当てはめて分散したり。
国の次は産業、最終的には個別株の比率まで。

突き詰めていけば分散はできますが、それには2つのコストが掛かります。

  • 時間コスト
  • トレードコスト

細かく分散されたポートフォリオを作るにも。
それを維持するためのリバランスにも多大な時間が掛かります。

また分散するということは銘柄が増えるということ。
売買の回数が増えれば手数料がかさみます。

なので現実的にはポートフォリオ3くらいが、手間と分散のバランスが丁度良いでしょう。

分散と並行して投資対象も探す

全世界に分散投資するなら、個別株ではなく投資信託やETFに投資すべきです。
その理由はトレードコストを抑えて広く分散できるから。

ここで一つ重要なのが、分散内容に合った投資対象があるかどうか。

例えばポートフォリオ4は米国と日本の比重が大きいです。
なので北米を米国とカナダ、アジアを日本と日本以外にアロケーションすればもっと分散できます。

カナダに投資する投資信託や、日本除くアジアに投資するETFがあれば、ですが。
※有るか無いかでいうと有りますが、国内の証券会社で取り扱っているところを筆者は見つけられませんでした。

なので現実的な分散のプロセスでは、あなたがどの証券口座を持っているか。
またその証券会社では、どんな銘柄が取り扱われているのか。
これが重要な鍵になります。

スポンサーリンク

世界に一つだけのポートフォリオで投資しよう

自作ポートフォリオで投資する利点。
それは投資内容への理解が深まり、投資方針が胸にストンと落ちやすいこと。

誰かが勧めた銘柄を鵜呑みにすると、暴落時にこんなハズじゃなかったと手放してしまうかもしれません。

でも自分がどんな投資をしているか理解し納得していれば、暴落時の精神的なダメージは意外と許容できるものです。
そしてこれこそが長期投資成功の秘訣です。

時価総額加重はイマイチしっくりこない。
そう思ったことがあるなら、ハンドクラフト法を試してみてはどうでしょう。

参考サイト

記事執筆にあたり、参考にさせていただいたサイトの一覧。